「もう限界だ」「いい加減、力を弱めよう」何度も湧き上がるそんな気持ちをねじ伏せながら、我慢に我慢を重ねた。それでも限界ってもんがある。しかし、更にもう一歩前へ踏み込む。
そこまでするのにはペーサーの大瀬和文に原因があった。
苦しい局面で何度も大瀬にプッシュされ、最後には根性まで使い果たした気分だった。でも、それで良かった。大の大人、しかもトップアスリートを自身のレースのために3日間も拘束するのだから、徹底的に準備をするのは当然、全ての力を出し切らなければ失礼だ。とことんついていくから、好きにしてくれ!そんな覚悟を決めていた。
前夜、台風の影響で110kmから52kmへ短縮
前日の発表で、黒姫エイドがフィニッシュとなった。ペーサーはバンフ(24km)から。信越110kmは元々走れるスピードコースだが、短縮された事により歩く所のない超スピードコースになった。山場はほとんどなくなり前半の斑尾山と、中盤の袴岳のみ。それ以外のほとんどが車が通れる林道で、テクニカルな下りもない。
ほとんどの選手にとって、レース途中で打ち切られるよりも、最初からフィニッシュ地点が決まっていたことはありがたかったに違いない。距離や時間が長くても短くてもやる事は一緒で、フィニッシュから逆算して計画的に自分の力を使い切る、準備してきたものを全てぶつけるだけだからだ。
5:30 110km(短縮され52km)スタート
序盤は予想通り、速いペースでレースが進んでいく。トップ集団には昨年4位で、今季フルマラソン2時間24分のタイムを持つ辻選手の姿もある。スタート直後の林道を4分/kmで進むが、彼にとっては速いペースじゃないだろう。
ペーサーが待つバンフ(24km地点)に3人のパックで到着。他の二人は給水なしでスルーしたため3番目に大瀬と共にバンフを出発。ここまでの展開を大瀬に話した上で、大瀬からの提案はこの先にある袴岳でのアタックだった。
しかし不安があった。
確かに他の二人に比べて、上りやテクニカルな下りは私の方に分がありそうだった。しかしレース中盤に勝負を仕掛けるのにはリスクもある。仮にアタックがキマったとしても袴岳を越えた先にある3A熊坂からフィニッシュまでは残り13kmもある。しかも熊坂からの関川沿いの林道は緩やかな上りで走り切れる。ここで足が止まってしまっては元も子もない。辻選手はスピード活かして、きっとそこで勝負を仕掛けてくるだろう。
袴岳の入り口で「せーの」という感じで、一気にペースアップしトップに躍り出ると、そのままの勢いで駆け上がった。私は行けるところまで行こうという覚悟でピッタリと大瀬の後ろに付いた。リスクを負わない中途半端なアタックでは意味がない。関川で後続に自分の背中を見せてはならない。ライバルたちの視界から完全に姿を消して、追うことを諦めさせたい。苦しくてペースが落ちそうになると「ここは頑張ってください」と大瀬はスピードを落とすことを許さない。
袴岳を降りた先にある、熊谷エイドで2位に5分の差を作った。大瀬のアシストによりアタックが決まり、結果的にその差が勝因となった。
優勝 4時間23分44秒
ペーサー
信越のペーサー制度は、レースをよりエキサイティングにし、そしてドラマチックにする素晴らしい制度だと思う。
ペーサーは選手を牽引したり、荷物を持ったりすることはできないから、結局は自身の力で進まなければならないのだけれど、でも、その存在は確かに力になる。大瀬の存在が勇気となり果敢なアタックに繋ながったし、最後まで走り切る諦めない力になった。最高におもしろい時間を作ってくれた大瀬には心から感謝している。ありがとう。今後、大瀬がペーサーを必要とするレースに挑むなら、彼が望むなら、私は何をおいても引き受けようと思っている。
楽と楽しいは違うということ
今回の優勝は本当にうれしかった。大瀬と走れた事、地元のレースだった事、そして後悔をしないために必死で準備をし、やり遂げたからだ。
いつも楽しく走りたいと私は思う。
でも楽をする事と、楽しいが違うって事をここまでのレースで痛いほど味わってきた。準備不足で後悔するのは本当に面白くない。執念とか根性は楽しいとは真逆にありそうだけど、実は楽しむためには付き合っていかなきゃいけない奴らだと思う。信越のフィニッシュを目指した日々はとても充実していたし、楽しかった。一つの事に打ち込み挑戦する日々、それこそが私にとっての楽しみなんだと思う。
ところで大瀬よ。一つだけ言いたい事がある。先にゴールしないでくれ。。。
応援ありがとうございました!感謝
Photo by MtSN